ぶーぶーの雑記帳

日常を切り取る(=意識高い)ことを意識低めでやるブログ 。

オカルト小噺。

子供の頃の記憶というのは、歳をとればとるほど、実に曖昧になってくる。

幼稚園生の頃に見た、変な黒い影だって。

小学校の頃に遊んだ、名前も思い出せないような友達のことだって。

何だって曖昧になってくる。

挙句の果てには、不確かな記憶が混ざりあって、気持ちの悪い記憶に書き換えられてしまうことも多々ある。

それが、夢の中のことなのか、僕の妄想だったのか、本で読んだ話が混ざってしまっているのか、今でははっきりとしない。

 

今日はそんな昔の曖昧な話をする。

 

小学校の頃、私は地元の中でも1、2位を争う都会に住んでいた。いわゆる地方都市のシティボーイだった訳だ。昔はお城の城下町としても栄えていたらしいその町には偉人の銅像や歴史を感じる建物など数多く残っていた。

都会ならではの新しさの中に、昔ながらの町並みが交差するような町だった。

僕の記憶が確かであれば、老舗の地元百貨店にいた時のこと。その地元百貨店は旧館と新館から成る7階建てで、いくつかのフロアには連絡通路で行き来できるようになっていた。

 

その百貨店の歴史は古く、特に旧館の従業員用の通路などは剥き出しになったパイプが天井に張り巡らされていて不気味であった。

そのせいであろうか、はたまた色々な怖い噂を聞いたからであろうか、子供の僕にはその百貨店は気味が悪く、あまり行きたくない場所の一つであった。

 

その噂というのも様々で「子供の売り買いをするイベントがある」「右側のエレベーターには何故か2人エレベーターガールが乗っている」「エレベーターを降りる時に外を見ていると、飛び降り自殺の霊が見える」「屋上遊園地には死んだ子供の例がいる」など、どれもどこかで聞いたことのあるような都市伝説から派生したようなものばかりであった。

 

そんな百貨店の中に「中3階」という、妙なフロアがあるのだ。そのフロアは階段の表示では四階になっていた。「その階段の表示が普段と違う時に鏡を見ると、異世界に連れていかれる。」という噂があった。

 

小学校1年生の夏、ちょうどその「中3階」に親に連れていかれた。確かちょうどそこで御中元の催しを行っていた。

もちろん子どもの僕が興味があるわけもなく、暇を持て余していた。

「まだなの?帰りたい」と駄々をこねる僕に呆れたのだろうか、親は僕に何枚か100円玉を渡して、暇潰しをしてくるように言った。

 

小銭を手に握り、僕が向かったのは4階のおもちゃ売り場だった。別に何か買えるわけでもないほどの小銭だが、メダルゲームに興じたり、ポップコーンを買えるくらいには余裕がある。

僕はウキウキしながら、4階に向かった。

 

4階に昇るエスカレーターに乗ると、上のフロアからサルや犬の音の鳴るぬいぐるみが騒がしい出迎えをしてくれる。4階に着くと僕はゲーム、模型コーナーの順番に見ていくのが定番コースだ。もちろん手持ちのお金では買うことが出来ないが、後から強請ってやろうという浅はかな算段があったのだ。

ある程度、強請るものの目星をつけた僕はメダルゲームをはじめた。軽快な電子音声が響く。ここにはジャンケンのゲームをはじめ、色んな種類のメダルゲームがある。その中でも僕が得意としていたのが忍者が点数のついた的に手裏剣を投げるゲームだ。しかし、その日は調子が非常に悪かった。じりじりとメダルが減っていく。

「今日はダメな日だなぁ」

このままでは不味い、そう思った僕は別な台で遊ぶことにした。しかし、どれも、上手くいかない。あれよあれよ、という内に追い銭をしていくと、持たされた小銭を全て使い果たしてしまった。

時計を見る限り、時間は余り経っていない。まだ親との約束までは時間がある。

 

「なにしてるの?」

 

話しかけられた方向の先には僕と同い年か、ちょっと年上くらいであろう男の子がいた。

 

「迷子なの?」

「いや違うよ。お母さんを待ってるんだ」

「そうなんだ、まだかかるの?」

「どうかな、わからないや」

「そうなんだ・・・」

「せっかくだし、探検してみない?」

「いいね!そうしよう!そうしよう!」

 

僕は階段のある方向を目指した。

目指すのは噂の階段の真意を見極めるためだ。

階段の横には各階毎にトイレがある。

「仮に噂が本当だったとしたら、トイレはないかもしれないよね」という彼の発言から先に2人でトイレにいくことにした。

今考えてみれば子供ならではの発想だ。

 

ここのトイレは古くて薄暗い。

だから、あまり使うことは避けていた。

電気のスイッチをつけて、用を足す。

 

ガチャン

 

「え?」

 

不意に後ろから鳴った金属音に思わず、身構えてしまう。

 

「あら、坊や、ひとり?」

 

後ろを振り返ると、全身緑色の衣服にマスクをつけた不審な老婆がそこにはいた。

なぜ?なぜ、男子トイレに老婆がいる?

そして、こんなに暗いトイレに電気もつけずにいるんだ?

頭の中が疑念と恐怖心で溢れる。

 

「いえ、ひとりじゃないです」

「ひとりじゃないの、どうみても」

「いえ、おかあさんときてます」

「じゃあ、おかあさんはどこ?」

 

やばい。何としても逃げなければならない。

アイコンタクトを送ろうと彼の方を見る。

 

「・・・・あれ?」

 

さっきまで隣にいたはずの彼がいないのだ。まさか先に逃げたというのだろうか。

 

よくよく見てみると老婆の手には大きな真っ黒いゴミ袋と銀色の何かが握られているではないか。

 

そうか、こいつは人攫いなのだ。

こうやって攫った子供を人身売買しているに違いない。きっと彼も、この老婆に捕まってゴミ袋に入れられたのかも知れない。

ヤバい。早くこの場を離れよう。

階段を使って、中3階に行って親に合流しなければならない。

 

僕は勢いよく走り出し、トイレのドアをあけて階段へと向かった。

 

「どこにいくの!!」

 

階段に老婆の声が響く。

怖い!怖い!!

 

早く、一段でも早く階段を降りねば。

子気味よく階段に僕の足音が響く。

 

暗い階段の先に明るい景色が飛び込んでくる。

やった!このまま母親の所に行けば・・・!

 

「えっ」

 

僕は絶句した。

そこには僕の見覚えのない景色がらあったからだ。目の前にあるのは御中元の催しなどそこにはなく、ただの紳士服売り場だ。

 

なんで??どうして??

 

階段の表示を見る。しかし、文字が掠れていてよく見えない。

ここは一体どこなんだ?

立ち尽くす僕の背に、突如声が掛けられた。

 

「あぶないでしょ、急に走ったりなんかしたら」

 

振り返ると、そこに居たのは

さっきの老婆だった。

 

「うわああああああああああ!!」

 

考えるよりも先に身体が動き出していた。

僕はそのまま奥へ奥へと走り出す。

 

老婆の足が予想以上に早い。

これは、どこかで撒かなければ!

幸いにも、この異世界?も建物の構造は同じようだ。となると、あそこしかない。

 

そう、エレベーターだ。

もしエレベーターがダメでもその隣には階段がある。ボタンを押す。

早く!早く!早く!!

 

『ニカイデス』

 

機会的なアナウンスが聞こえ、ドアが開いた。

エレベーターは無人だった。

 

おかしい。ここのエレベーターには全て添乗員がいるはずなのだ。

このままエレベーターに乗るのは不味い、そんな気がした。僕は踵を返して階段を駆け上がった。こちらの階段は新しい。

 

せめて上のフロアに行ければ!!

 

・・・

 

階段を登った先に見えたのは中3階だった。

 

 なんでだ?その疑問が頭の中でいっぱいになった頃、ちょうど目の前にいた母親の姿を見て、僕は安堵した。

 

「どうしたの?そんな顔して」

 

僕は今の今まで起きたことを話そうとした、 しかし、混乱した頭で話すものだから全く伝わらなかったのだろう、怪訝な顔で見つめる母親の表情は少し困惑しているようだった。

 

 「あのねあのね・・・」

 

「あら、ここにいたんですね」

 

後ろから響く声。聞き覚えのある声だ。

そう、あの人攫いの老婆だ。よもやここまで追ってくるのか・・・。

 

意を決して振り向く。

しかし先のような不気味さは感じられなかった。

どこか老婆の顔は穏やかで、何処にでもいそうな「普通」の人だった。

 

「迷子かと思ったけど、良かったわ」

「ああ、そうなんですね」

「いえいえ良かったです」

「ごめんなさい」

 

そんなやり取りをして、僕も親に言われるがまま頭を下げさせられた。

どうやらこの人はここの清掃員だったらしい。暗いトイレの中で急に声をかけられて僕も気が動転していたのだろう。

 

「もう、あんまりどこそこ行っちゃだめでしょ」

「はぁい」

「お母さんもそう怒らなくていいですよ、いやでもびっくりしましたよ。」

「?」

「だって真っ暗なトイレで1人でいるんですもの」

 

・・・・? え? 1人だった?

じゃあ僕が会った子は一体だれなんだろう?

 

今でも分からないし、今ではあの時あった彼がどんな顔をしていたのか、どんな服装だったのかさえも覚えていない。

 

 

数年後、学校の授業でそこが昔、酷い空襲にあった地域だということを聞いた。

それが関係あるのかは分からない。

もしかしたら僕の空想の中の話かもしれない。

 

ただ、今でも僕はそのデパートに微妙に不気味な嫌悪感を抱いている。